市場開発・官民連携部長の川脇史子さんに聞く
Inside ADB | 2023年12月20日
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キャリアパス
上智大学比較文化学科(経済)卒業→野村證券株式会社→ADB入行(協力資金室、東南アジア局民間開発担当、中央・西アジア局インフラ課、エネルギー課、エネルギー課長、東南アジア局次長、中央・西アジア局シニアーアドバイザー、現職)
小中高とアメリカで過ごし、日本での就職を希望し、日本の大学を卒業しました。物作りに魅力を感じ、メーカーでの就職活動をしていた中、技術に関わる業界よりも、言葉や金融の手段を使って企業の成長や工場の建設を支援できる証券会社の誘いに惹かれ、総合職300人中7人の女性の一員として野村證券に入社しました。国際金融部での仕事では、各国のサムライ債引受や海外企業の東証上場案件に関わり、英国電力や東欧国営企業の民営化案件なども手がけました。その後アジア課に配属され、6年間香港に駐在し、引受、営業、シンジケーション業務を担当しました。アジア諸国を訪れながら、富と発展の格差の原因に興味を持ち、ADB や国際協力銀行(JBIC)の 保証債に携わる中で、開発業務のやりがいを感じました。
民間企業では、しばしば自社の利益が顧客より優先される傾向があります。しかし、ADBとの外交活動を通じて、その顧客志向に感銘を受けました。同じ時期、深夜3時には海外の法人顧客との交渉に没頭し、数週間ほとんど眠らずに日本円債の価格設定について話し合っていました。微細な数字の手数料を0.0001%下げるためにも数週間かかりましたが、社会や企業にとってそれがどれほど意味があるのか疑問に感じました。その頃、ADBからの「一緒に、アジア・太平洋地域の貧困緩和のために働いてみないか」という誘いの言葉が頭に浮かびました。この誘いに応じ、4 か月後には、ADBの本部があるマニラで働く機会を得ることができました。
国際公務員という仕事の魅力は、相手国の人々のために奉仕することにあります。何をするべきか悩んだ際、子供たちが将来納税者となり、ソブリンローンを返済していく姿を想像し、最善を考えました。
ADBでの担当業務
アジア・太平洋地域のインフラへの年間投資需要は17兆ドルと言われており、そのうち公共セクターからの資金供給は約40%にとどまると試算されています。市場開発・官民連携部(OMDP)は、このギャップを埋め、持続可能な成長を促進し、アジア・太平洋地域の人々の生活と生計の向上を支援するために、民間セクターの開発と投資を通じてADBの包括的なソリューションを提供しています。OMDPは、民間投資を可能にするため、ビジネス環境を整備する政策や制度づくりを支援しています。また、アジア諸国におけるPPP(民間連携)によるインフラ整備を提唱し、その実施能力向上のための取り組みを後押しし、公的・民間部門の当事者双方に対して個々のPPP事業を開拓・組成するための助言や、その実施に必要な資金面での支援を行っています。またADBは、アジア・太平洋地域の気候バンクとしての役割に加えて、全てのプロジェクトに気候フィルターを導入しています。同時に、エネルギー転換資金や炭素取引市場の発展にも力を注いでいます。
ADBは、各国のニーズに適切に対応しています。ラオスのような国ではPPP法整備の支援を行う一方、フィリピンのようにPPPの長い歴史を持つ国には、ニノイ・アキノ国際空港の商業化、南北鉄道の運用契約、マニラ地下鉄など、複雑なプロジェクトに関してもアドバイザリー・サービスを提供しています。
またOMDPは、日本、オーストラリア、カナダ、韓国からの出資によるアジア・太平洋プロジェクト組成ファシリティ(7,700万ドル、利用率87%)を運営しています。これまでに16億ドルのインフラプロジェクトを直接支援し、使用された資金の36%がリサイクルされており、他のファンドと比較しても高い再利用率を誇っています。
キャリア・エピソード
パキスタンの山奥にある小さな水力発電所のプロジェクト現場へのアクセスは、唯一車が通れる川底の道を使って行く必要があり、まるでジェットコースターのようなスリリングな道のりでした。プロジェクトが影響を及ぼす村でのヒアリングでは、村人、特に子どもたちが歓迎してくれました。巨大な焼きたてのパンを分け合い、貴重な砂糖がたっぷり入ったおいしいミルクティーでもてなしてくれました。私たちはこの暖かな歓待に心から感謝しました。
村では浸水した学校を修復する資金が不足しており、夜間安全にトイレに行けない状況から女性たちは尿路感染症に苦しんでいました。また、最寄りの診療所までの距離が 徒歩で3 時間もあり、薬の入手も難しいため、危険な状態にありました。そこで、新しい学校、診療所、及び寒い冬に川から水を汲まなくても済むように、村に水道を引く提案が出されました。 ADB のセーフガード政策のもとでは、これは全てプロジェクトの一環として提供される可能性がありました。そこで私たちは、村の生活を向上させる方法について興奮し話し合いながら山を下りました。しかし、この夢は叶いませんでした。今でも、成果を出せなかったことが頭から離れません。この挫折から得た経験が、今の私にとって、開発プロセスを迅速かつ確実に進めるためのエネルギーとなっています。
この経験は、できるだけ早く確実に開発を実行する活力になりました。電力の供給が 1 日遅れると、また 1 日苦しみが長引くことになります。年間 150 日の出張やプロジェクトに関する終わりのない質問、書類の修正など幾多の困難があっても、女性に対する暴力の減少など、安定した電力供給の及ぼす影響を考えると、すべて価値があったと感じました。
SDGsへの取り組み
ADBの長期戦略「ストラテジー2030」の導入により、プロジェクトがSDGsにどのように貢献するかが明確になりました。プロジェクトがSDGsを念頭に置いてデザインされるために、コンセプト段階でチェックリストを用意し、最適なインパクトを持たせるためにはどの側面にリソースを組み込む必要があるかを把握しています。早い段階でポテンシャルを見つけることは、クライアントとの議論だけでなく、リソースの配分においても重要です。
仕事のやりがい
アジア・太平洋地域の人々がより良い生活を送るために貢献することは、非常に充実感に満ちた経験です。日々、最も効果的な方法を考えて実行する必要がありますが、失敗や挫折を経ても精進し続けることで、開発の進展を感じることができます。
求められるスキルや経験
国際公務員としての役割を果たすには、聞く能力や忍耐力、粘り強さ、機敏性、誠実さが不可欠です。相手国政府のニーズを理解し、最適な解決策を提案するために、組織の内外で奮闘します。小規模再生可能エネルギー発電のプロジェクトは、初提案から案件の実施まで、8年かかりました。Work Life Balanceではなく、Work Work Balanceとして、やるべき仕事に加え、夢のあるやりたい仕事のために時間を作り、根気強く追求することでチャンスが訪れます。
プライベート
私は仕事以外に趣味として旅行、各国のスーパー巡り、お散歩を楽しんでいます。また、家族との時間も大切にしています。子供たちが社会人になるのを見守り、親孝行することが次の目標です。特技はないですが、開発に関わる仕事に対する情熱を大切にしています。